成熟ラットでは、催炎性物質であるマスタードオイルの顎関節内への注射により、反射性に咬筋や顎二腹筋の筋電図活動の増加が生じ、これは一種の侵害刺激反応と考えられる。一方、一過性の筋電図活動増加の後にオピエート受容体拮抗物質である塩酸ナロキソンを静脈内に投与することによって筋電図活動は再び増加するようになる。この再増加反応は内因性の鎮痛機構によるものと考えられている。そこで本研究では侵害反応系と内因性の鎮痛系が生後いつから発達してきたかを検討することを目的とし、本モデルにおいてマスタードオイル注射による咀嚼筋活勤の増加と再増加現象の年齢的変化について検討した。 実験は生後4週目、6週目と8週目のラットを用い、マスタードオイルをラットの顎関節に注射した後の咬筋または顎二腹筋の筋電図活動量と、またその後の1.3mg/kgの塩酸ナロキソンを静脈内に投与した後30分間での筋電図活動の再増加反応量をそれぞれ測定し、各週齢間で比較した。 その結果、生後4週、6週、8週目ではマスタードオイル注射と同側の筋群には活動の増加がみられ、群間での有意差は見られなかったが、対側では4週では有意な活動の増加ではあったが、8週目のラットの反応とは有意に低い筋電図活動の増加が認められた。一方、塩酸ナロキソン投与後の再増加反応量は4週目では全ての筋群で有意な上昇は認められず、6週で8週目の反応とは有意に低い増加が認められるようになり、経年齢的に増加することが認められた。 以上より、4週目までは侵害反応の発達は反対側では形成されてはいるが不十分であり、その後成熟レベルに経年齢的に増加することがわかった。さらに痛み刺激による中枢神経の可塑性は4週では未発達であり、その後徐々に増加することが認められた。これらは、臨床的に小児において顔面や顎関節の疼痛が慢性痛を引き起こしにくいという現象を支持するものと思われる。
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