研究概要 |
口腔扁平上皮癌培養細胞のHepd,SCCHAと唾液腺癌培養細胞のHSG,HSYを用い、以下の実験を行った。1.各細胞を側背部皮下に接種したヌードマウス可移植性腫瘍に臨床治療相当量のビンクリスチン(VCR)を2日毎に腹腔内投与したところ、投与5週後の各腫瘍でコントロール群との相対腫瘍重量比(T/C)は上昇し、免疫染色にてP糖蛋白の高発現が認められた。2.in vitroで20%増殖抑制濃度(IC_<20)>)のVCRで反復処理した後に、免疫染色でP糖蛋白の発現が認められた各細胞について、作用機序の異なる抗癌剤に対する感受性の変化を50%増殖抑制濃度(IC_<50>)を求めて比較したところ、P糖蛋白が関与するとされるADR,ETPに対するIC_<50>が2倍前後に上昇し、P糖蛋白が関与しないとされるBLM、PEP,CDDP,5FUに対してもIC_<50>が軽度上昇した。3.各親株とそれらから分離したクローン10株ずつについて、IC_<20>のVCRによる処理前と反復処理後にtotal RNAを抽出し、RT-PCR法にてP糖蛋白をコードするmdr1mRNAの検出を試みた。その結果、VCR処理前に親株のすべてに、クローンではHepdの4株、SCCHAの1株、HSGの1株、HSYの5株にmdr1mRNAが発現していた。また、VCRによる反復処理後からmdr1遺伝子が発現したクローンは、Hepdで3株、SCCHAで5株,HSGで5株,HSYで4株認められ、反復処理後でもmdr1mRNAが認められなかったクローンは、SCCHAで2株、HSGで1株認められた。以上の結果より、口腔扁平上皮癌と唾液腺癌細胞には、P糖蛋白発現細胞が存在し、その発現により抗癌剤多剤耐性を示すことが明らかであるが、P糖蛋白が関与しない抗癌剤に対しても感受性が低下している細胞もみられること、また、P糖蛋白が発現せず抗癌剤耐性を示したクローンも認められたことから、細胞不均一性の高い腫瘍細胞において、複数の耐性機構が関与している可能性が示唆された。
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