研究概要 |
上皮細胞から上皮下の細胞への炎症波及機構を解明する事を目的に,上皮細胞内のシグナル伝達物質に着目し,歯周病患者より採取した歯肉組織片を用いて,主要な細胞内シグナル伝達物質であるphosphorylated Mitogen-Activated Protein kinase(MAPK)に対するモノクローナル抗体で免疫染色を行った。その結果,主に上皮細胞および血管内皮細胞に特異的にMAPKのリン酸化が認められた。そこでヒト口腔由来上皮細胞ならびにヒト臍帯静脈内皮細胞を用いた培養系に歯周病関連細菌Eikenella corrodensの全菌体ならびに培養上清を添加・刺激して,上皮細胞および上皮下の細胞,特に血管内皮細胞に対する影響を調べた。上皮細胞にはMAPKの経時的なリン酸化(活性化)が認められ、さらに血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の産生増強がmRNAと分泌蛋白の両レベルで認められた。このVEGFのmRNA発現増強は、血管内皮細胞においても認められた。またE.corrodens培養上清で刺激すると、血管内皮細胞は細胞増殖促進効果を示した。血管内皮細胞に対しては、Inter Cellular Adhesion Molecule-1(ICAM-1),Vascular Cellular Adhesion Molecule-1(VCAM-1)のmRNA発現の増強も認められた。上皮細胞に認められたシグナル伝達物質(MAPKおよびp38)のリン酸化(活性化)を各特異的阻害剤(MEK-1 inhibitor,p38 inhibitor)で抑制すると、Interleukin-8およびICAM-1の発現が抑制された。また,Protein Kinase C阻害剤もICAM-1の発現誘導を抑制した。本研究により歯周病関連細菌で刺激された歯周ポケット上皮細胞から上皮下組織を構成する細胞への炎症波及は,上皮細胞内でシグナル伝達物質の活性化を介した様々な炎症性メディエーター・細胞増殖因子の産生が誘導され,上皮下の細胞に細胞増殖促進や接着分子の発現誘導が生じ,急性あるいは慢性的な炎症反応が増強される機構であることが示唆された。
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