研究概要 |
歯周組織は加齢とともにその活性が低下することが知られている。しかしながらそのメカニズムについては不明な点が多い。老化に関する学説にはまだ統一された見解はないが,一つは「プログラム説」であり,もう一つは「擦り切れ説」である。「プログラム説」ではテロメア長がその説の根拠となっており,歯周組織において,昨年の研究でテロメア長を測定したところ,その長さは様々であり,年令や組織破壊の程度との相関は見いだせなかった。そこで「擦り切れ説」による機能の低下を説くカギのもうひとつである細胞内のミトコンドリアについて検討を加えている。ミトコンドリアDNA(mtDNA)はエネルギーを取り出す際の副産物として漏出する活性酸素に常にさらされていることから,障害を受けやすく,変異が高率に発生する。また,その修復機構も完全でないことから,ヒトにおけるmtDNAの突然変異率は核内のDNAの10倍にもなる。変異mtDNAの存在により,ミトコンドリアのエネルギー産生は低下し,また活性酸素の漏出も増大し,mtDNAの酸化的損傷による新たな変異の蓄積をもたらすという悪循環を引き起こす。最近,加齢によって引き起こされる変異mtDNAの蓄積およびそれによって引き起こされる機能低下が心筋,横隔膜,骨格筋で報告されている。本研究ではこのような変異mtDNAが歯肉中に存在することをPCR法を用いて証明した。 方法:歯周炎歯肉からDNAを抽出し,5kbおよび7.4kbが欠損した変異mtDNAに特異的なプライマーを用いPCR法を行った。 結果:高齢者の歯周炎歯肉中に5kbおよび7.4kbが欠損した変異mtDNAが検出された。それに対し、若年者の歯肉では発現が低いか、検出されなかった。以上の結果から、変異mtDNAの歯肉中への蓄積が加齢による歯周組織の活性の低下の一因ではないかと推測される。
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