研究概要 |
細胞に紫外線を照射すると、核酸のポリヌクレオチド鎖中で隣接する2つのチミジンの間で光[2+2]環化反応が進行し、cis-syn配置のシクロブタン型光二量体(T[c,s]T)が主成績体として生成する。このような変異はDNA複製の際の欠失や付加の原因となり、細胞死や突然変異を誘発する。シクロブタン環を開裂させて修復する酵素であるDNAのフォトリアーゼの機能を有する人工化合物は、新薬のリード化合物として期待される。 大環状テトラアミン-亜鉛(II)錯体(ZnL)は中性水溶液中でチミジンを選択的に認識して、イミド窒素アニオン-亜鉛配位結合に基づく安定な複合体を生成する。申請者は、ZnLのチミジリル(3'-5')チミジン(d(TpT))の光[2+2]環化反応におよぼす影響を検討した。紫外線の照射下では、d(TpT)とT[c,s]Tとの間で平衡が生ずる。2つの亜鉛錯体を架橋した複核錯体(Zn_2L)が、d(TpT)とより安定な複合体を生成してd(TpT)の光環化反応を阻害するのと同時に、この平衡をd(TpT)へ著しく片寄らせることが判った。この成果により、申請者は平成11年度錯体化学研究会「研究奨励賞」を受賞した。 さらに平成11年度は、Zn_2Lおよびリボフラビン(FAD)存在下でT[c,s]Tの光開裂反応を検討した。単核亜鉛錯体は、FADとも複合体と生成するので、複核錯体Zn_2LはT[c,s]TおよびFADと1:1:1で三元複合体(Zn_2L=T[c,s]T=FAD)を生成すると考えられる。申請者は、FADを照射して生成する光励起FAD^★から、T[c,s]Tへの複合体内エネルギー移動によるT[c,s]Tの開裂が加速されると考え、実験を行った。しかし、反応加速は亜鉛錯体に由来する程度にとどまり、FADによる加速効果は認められなかった。そこで現在FADの還元型、FADH_2による加速効果を検討している。
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