研究概要 |
これまで塩化パラジウムを用いて種々の糖類から合成された5,6-不飽和糖や、6位に置換基を有する5,6-不飽和糖についてFerrier反応を行い、本反応の光学活性シクロヘキサン環の合成法としての高い汎用性を示してきた。昨年度はこれらの知見に基づき、本反応を天然物合成に応用し、HIV阻害活性を示すことで最近注目を集めているサイクロフェリトール及びそのエピマー体の効率のよい合成法を開発することができた。 本年度はさらに、イノシトールの全異性体の立体選択的な合成法の開発を行った。上述のように、パラジウム塩を用いて6位に置換基を有する多様な5,6-不飽和糖に対してFerrier環変換反応を行い、多官能基化されたシクロヘキサノン体を合成した。その際に、水銀塩を用いた場合と比較してパラジウム塩では多くの異性体を一挙に合成できることも見出した。続いて、得られた様々な多官能基化されたシクロヘキサノン体のカルボニル基を立体選択的に還元することによってイノシトール全異性体9種類のうちの8種類の合成を行った。残る1種類は立体化学を反転させることによって誘導し、初めてイノシトール全異性体9種類を一挙に化学合成することに成功した。イノシトールの異性体の中には天然にも微量にしか存在しなものが多く、その構造的な特性、生物活性など、不明な点が多く残されている。今後、我々は、これらのイノシトール異性体を生化学分野へのツールとして提供する予定である。さらに、コンピューターによるコンフォメーション解析も並行して行い、イノシトール異性体の構造活性相関研究に発展させていきたい。
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