研究概要 |
これまでの検討で、レチノイン酸(RA)が培養平滑筋細胞(SMC)の増殖を抑制すること、分化を部分的に誘導することを明らかにしてきた。今年度はこれらの効果の分子機構についてさらに詳細な検討を進めた。 1. 増殖抑制効果の分子機構の解析 細胞周期の進行を制御するサイクリン依存性キナーゼ(cdk)とその制御因子について検討した。RA処理した培養SMCでは増殖刺激後のcdk2,4,6の活性が有意に抑制された。Western blot法による検討ではcdk活性を負に制御するcdkインヒビター分子の発現増強は認められず、活性構成成分であるcdk2,4,6およびサイクリンD3,Eの発現が減少していた。サイクリンD1,D2の発現は減少を認めなかった。Northern blot法による検討では、これらの発現抑制は転写レベルで制御されていた。cdk4,6はD型サイクリンとともにG1初期の、cdk2はサイクリンEとともにG1後期の進行に必須であることから、サイクリン・cdkの発現抑制によるcdk活性の低下が、RAによるSMCの増殖抑制作用の分子機構であることが明らかになった。 2. 分化誘導効果の分子機構の解析 RA処理はSMC特異的αアクチンの発現を亢進し、部分的なSMCの分化を誘導する。この条件でRA受容体とヘテロ二量体を形成して転写因子として作用するPPAR(peroxisome-proliferator-activated receptor)-γの発現を検討した。PPAR-γは蛋白・遺伝子発現ともにRA処理により増強した。次にPPAR-γのリガンドの効果検討した。SMCが培養系で脱分化する過程において、PPAR-γリガンドはSMC増殖を抑制するとともに、SMC分化のマーカーの発現を正に制御した。以上より、RAの分化誘導効果にPPAR-γが関与する可能性が示された。当初の予定に含まれていた蛋白合成能と細胞肥大の検討はシステム整備の遅れにより、準備の段階にとどまった。
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