研究概要 |
1.研究目的:東洋医学はいわば疫学に立脚した診断治療学であり、西洋医学とは体系を異とする。しかしセルフケアを要する患者の病状把握においては自他覚所見を重視する東洋医学が貢献できる領域は大きいと考える。本研究では東洋医学体系を導入したセルフアセスメントの実現可能性の検討、および継続的な自己健康管理の道具として、パソコンによる自動弁証システムの構築を試みた。 2.健康調査票への弁証理論の導入:健康調査票は東洋医学的弁証スコア(MOS),SDS,HPIなどから構成した。京都府下の12公立高校の生徒6,251人を対象に調査し、5,846人(有効回答率93.5%)について分析した。 (1)MOSの各11病証の結果は気血陰陽弁証では陽虚(84.9%)、陰虚(54.5%)が、臓腑弁証では肺(60.1%)、脾(48.2%)の病証が多くみられ、呼吸器、消化器系機能の失調や冷え性が多いと考えられた。 (2)陽虚、血虚、血おで弁証がある人でBMI値が有意に低く、やせている傾向が示された。高校生におけるやせ傾向が冷えや栄養不足状態などからくる可能性が考えられた。事実、朝の欠食など食習慣の乱れがある場合にやせ傾向が強くみられた。 (3)MOSの各証で弁証がある人のSDSが有意に高く、MOSは身体的健康のみならず精神的健康も含めた評価が可能であることが示唆された。 (4)MOSやSDSなどの調査項目を用いて因子分析を行った結果、「身体的健康度」「精神的健康度」「生活の充実感」の3因子が抽出された。進路別のクラス編成をとっているある高校では、これら3側面からとらえた健康度に進路別および学年進行による差が見られた。進学クラスでは3年生は受験を目前に控えた時期に調査を実施した関係もあり、「身体的健康度」「精神的健康度」ともに高学年になるほど低くなり、これに反して「生活の充実感」は高くなる傾向を示した。 3.自己健康管理へむけてのコンピュータ導入の可能性:MOSの弁証がパソコン上で簡単にできるシステムを構築した。約50の設問入力に要する時間は3〜5分、弁証結果出力は即時可能であった。また、一時点の弁証結果の表示だけではなく、個人の時系列的な心身健康状態の変化を自動グラフ化するなど、視覚的に提示可能にし、自己健康管理の道具としてのシステム構築を検討した。
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