本研究では、肺癌術後の看護場面における看護婦の実践過程を、情報・判断・目標・実践・評価に沿って分類し、臨床判断の構造を明らかにすることを目的とした。 対象者は、0大学医学部附属病院の外科病棟に勤務し、肺癌患者の術後看護を実践している看護婦で、研究参加に同意を得られた8名とした。肺癌患者の術後1週間にわたり、上記看護者の実践場面に研究者が参加し、生起する事象をできる限り詳細に記述した。その際、臨床判断のプロセスが途切れるまでを1場面とし、各場面の終了後に、その行為に至った思考過程や、行為の意味について、対象者に逐次インタビューを行った。 分析の結果、判断プロセスが明確なもの(17場面)と、明確でないもの(8場面)に分けることができた。判断プロセスの明確な場面とは、「患者の気がかり・関心事に焦点を当て、看護婦の観察したことを総合的に判断して実践に至っている」「患者のその人らしさを引き出し、認めることで、離床への意欲・力としている」「具体的な説明が、患者に安心感や自信を与えている」「多数の情報を総合的に判断し、患者のニードと看護婦の目標を組み合わせた実践をする」「患者の状態により目標・計画を適宜変更していく」ものであり、いずれも患者に良好な結果がもたらされていた。一方、判断プロセスが明確であっても、「患者の訴えと看護婦の優先順位の判断との間にずれが生じた」ため、患者の問題が未解決に留まる場面もあった。判断プロセスが明確でない場面では、「患者の反応を見た上での判断がなく、看護婦の計画を押し進めていく」場面、「病棟の基準や従来の経験により、看護目標が先行している」場面があった。また、プロセスが明確でなくても、「情報をとりながら、判断し、ケア計画を立て、実行に至る」という同時進行の場面があった。 以上を総合すると、看護婦の基本的思考プロセスは、各場面における目標に沿って、随時情報を取り込みながら、その都度、実施・評価を反復し、実施の続行や修正・変更の判断を行っている。その際、患者との相互理解があれば、目標がより明確化され、患者の状態をより良好なものに導くことが期待できる。
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