研究概要 |
本年度は,筋のクレアチンリン酸(PCr)含有量が増加した時に,筋エネルギー代謝と筋の組織化学的および生化学的特性がどのように変化するのかを調べ,これらからPCrの役割に関する一つの知見を得ることを目的とした.被検動物として8週齢のWistar系雄性ラットを用い,それらを,1%濃度のクレアチン(Cr)を含ませた粉末飼料を摂取させるクレアチン摂取(CR)群と対照群(CON)群に分けた.8週間の摂取期間終了後に,リンの磁気共鳴分光法を用いた筋エネルギー代謝の測定を行った.その後,腓腹筋内側頭およびヒラメ筋を摘出し,組織化学的および生化学的分析を施した.安静時のPCr/アデノシン三リン酸(ATP)比はCr摂取により18%有意に増加した.Cr摂取によりATP濃度は変化しないことが示されていることから,この結果は,8週間のCr摂取により筋のPCr含有量が増加したことを示している.中強度(40%MVC)収縮中のPCr/(PCr+無機リン酸)比は両群とも約0.6で差は認められず,運動後回復中のPCr回復の時定数も両群間で違いはみられなかった.さらにクエン酸合成酵素活性においても差はみられなかった.これらの結果は,Cr摂取が筋の酸化的能力には影響を及ぼさないことを示している.一方,最大収縮中のPCr濃度はCON群よりもCR群が有意に高値を維持していた.この結果は,PCr含有量の増加が発揮張力を高いレベルで維持する上で有効であることを示唆している.以上のことから,低〜中強度の収縮では,有酸素的エネルギー供給系によるエネルギー供給が十分であるため,PCrを用いたエネルギー供給能が運動の制限要因となり得る可能性が少ないこと,そして,最大運動では,PCrの量,およびPCrを用いたエネルギー供給能力が筋力発揮能力を規定する重要な要因となることが示された.
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