研究概要 |
豪雨により発生した崩壊が河谷をせき止め形成された天然ダムの形成・決壊と土砂移動・地形形成の関係を明らかにすることを目的として調査,解析を行った.対象地域は1889年8月の豪雨によって30カ所以上の天然ダムが形成された奈良県の十津川流域と,1934年7月の豪雨により大規模な河谷の埋積と巨大な岩塊の移動が生じた石川県の手取川流域である.当時の災害記録,空中写真の判読,現地における測量,堆積物の観察によって,天然ダムが形成された場所の特定と形成・決壊の過程,時間的推移の推定,土砂移動プロセスと河谷埋積後の地形変化過程を検討した. 十津川流域では,30以上の天然ダムが形成・決壊した.一部は上流のダムの決壊による増水が引き金となり決壊を起こした.ダムの継続時間は一般に数時間程度であったが,数m以上の厚さの堆積物が堆積した.堆積物はノーマルグレーディングをしており,表層はシルト質堆積物であった.十津川本流に沿っては,段丘化した当時の堆積面と現在の河床との比高は小さが,一部の支流では数10mにもおよぶ埋積とその後の下刻が生じた.手取川流域では,数10mにおよぶ河谷の埋積が生じたが,その後,15年程度の間に現在の河床近くまで河谷が進み,その後現在までの50年間の下刻はわずかであった.以上から天然ダムの形成・決壊による土砂移動は次のようにまとめられる.天然ダムの決壊によって大量の土砂移動が生じ,河谷の埋積が起こる場合と,天然ダムの継続中に滞留した水中で主として細粒土砂が堆積する場合がある.前者の場合はイベント後の数年間に急激な下刻が生じるのに対し,後者の場合はゆっくりと下刻が進み,徐々に土砂が排出される.
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