冠動脈疾患の死亡率は、血清コレステロール値のみでなく、コレステロール摂取量とも正の相関が示されており、特に大都市部の若年層で血清コレステロール値が高値を示していることから、食生活、食事性コレステロールの影響が議論されている。しかしながら、調理操作による食材中のコレステロール量の変化についての研究は、実験レベルの報告に限られ、効果的な食事管理、指導を行うための一般的な調理方法を比較した基礎的研究は行われておらず、摂取コレステロール減少に対する調理操作の有効性は明確にされていない。 本研究は、現実の調理における脂質量の変化を解明することを目的とし、各脂質成分量を分析しているものである。今年度は、通常の調理操作により一般食材のコレステロール量がどのように変化するのかを明らかにすることを目的に、市販の豚ロース肉を試料として、調理過程「ゆで」「炒め」「揚げ」の前後におけるコレステロール量をガスクロマトグラフィーにより測定した。なお、比較のためにイカ、および、玉葱も試料として用いた。 調理前の豚肉に含まれる脂肪酸量とコレステロール量の間に有意な相関は認められなかった。「ゆで」「炒め」においてコレステロール量は減少するものの、「ゆで」ではその減少は有意なものではなく、「炒め」では高脂肪酸量の豚肉(33.8%)の場合にのみ有意な減少(79.9%)を示した。「揚げ」では、衣をつけた状態からは有意な減少(76.4〜89.6%)を示したが、この減少は衣の材料である鶏卵コレステロールの溶出割合が高いと推測された。また、「ゆで」「炒め」「揚げ」のいずれにおいても、調理前の脂肪酸量の増加につれてコレステロールの残存率が低下するが、その影響の程度は小さいことが示された。これらのことから、コレステロール摂取量減少のための方法として、調理操作によるコレステロール量減少は、容易ではないと考えられた。
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