本年度は、下記の2つに関する研究を行った。 1.オーストリアの数学教育研究者Dorflerが提唱する一般化モデルの精緻化を行った。具体的には、Dorflerモデルには、次の3つの検討点があることを指摘した上で、その理論的改善を図った。検討点の1つめは、「記号の対象化」の前に置かれている「外延的一般化」の適否である。これについては、それを「参照領域の拡張」と改善すべきであることを指摘した。2つめとして、「記号の対象化」の後にある「内包的一般化」の適否である。これについて、「記号の対象化」以降の一般化の過程には、「内包的一般化」と「外延的一般化」の双方の側面があることを理論的に指摘した。3つめは、「記号の対象化」が連続的に生起することがないのか、ということである。これについては、「記号の対象化」が数学的概念の発展にとって不可欠であることを論じながら、そうした過程をモデルに盛り込む必要があることを指摘した。これら3つの考察をふまえて、「Dorflerに基づく分岐モデル」をあらたに提案した。 2.「Dorflerに基づく分岐モデル」の適用例として、「少数でわるわり算」と「分数でわるわり算」の一般化の構造的な違いを明らかにした。その結果、前者の本質が、「記号の対象化」から「内包的一般化」へ至るルートとして説明されるのに対し、後者のそれは、「記号の対象化」から「外延的一般化」へ至るルートとして説明されることを指摘した。こうした比較を通じて、「少数でわるわり算」と「分数でわるわり算」の意味理解の相違を生み出す要因を明確にすることができたと考えている。
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