本研究では、1:母分散行列に関する構造の設定、2:設定した構造のもとでの母分散行列の最尤推定量の導出、3:最大尤度比型の判別関数の導出、4:誤判別率の推定、5:いくつかの構造をもとに構築した判別関数の比較、6:判別関数の選択方法の構築、といった手順での研究を考えている。誤判別率を推定するためには、判別関数の分布を求める必要があるが、精密な分布の表現は正規母集団のもとでさえ困難である。そこで、本研究では分布の漸近展開を求め、それを用いて推定量を構築することを考えている。 漸近展開の導出では、初期標本が与えられたときの判別関数の条件付き分布のテイラー展開された特性関数の初期標本の分布に関する期待値計算を計算し、それを反転して分布関数を計算する方法を考えているが、非常に多くの計算量が必要となる。そこで、本研究では必要な計算手順を数式処理ソフト等を用いてプログラミングし、計算機を用いて漸近展開の計算を行う。 平成10年度では、標準正規分布に従う確率ベクトルの2次形式の多項式の期待値計算に必要な置換規則をまとめ、p次元ウィシャート行列のm次多項式の固有和の期待値の計算アルゴリズムを構築し、数式処理ソフトのMathematicaで実現した。これを用いることによって、正規母集団からの標本に基づく基本的な統計量の分布の漸近展開は短時間で行うことができる。 構築されるいろいろな判別関数を比較する場合には、非正規母集団に対する性能も調べておく必要がある。平成11年度では、非正規母集団のもとでの判別関数の分布の漸近展開を計算するための準備として、独立標本に基づく基本的な統計量の特性関数の漸近展開を計算機上で行うためのアルゴリズム検討し、その一部をMathematicaで実現した。
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