研究概要 |
構造物の健全度を非破壊で調べるヘルスモニタリングの基本技術として,ウェーブレット解析と階層型ニューラルネットのハイブリッド化手法を提案した。ウェーブレット解析は観測信号(構造物の加速度や速度情報)から正常/異常の判断に用いる特徴量の抽出に利用され,ニューラルネットは構造物の劣化を推定するのに用いられる。構造物を3自由度ダイナミカルシステムで近似し,観測信号から解析的に解が求まらない設定のもとで,バネ定数および減衰定数の劣化の程度を推定する問題に提案したハイブリッド手法を適用した。計算機シミュレーションによって推定精度を調べた結果,バネ定数はある程度の精度で推定可能であったが,減衰定数については十分な推定精度が得られなかった.ここで用いたニューラルネットはモジュール構造をもたないものであるが,この代わりに創発的に機能獲得が可能なモジュール構造ニューラルネットを適用することで,前述の問題を改善できる可能性がある.そこで,まずニューラルネットの基本特性を調べる際によく取り上げられる連想記憶の問題を取り上げ,モジュール構造ニューラルネットの有効性を検討した.モジュール構造を決定するパラメータの探索に遺伝的アルゴリズムを用い,所望の特性に適合したモジュール構造(各モジュールは異なる機能をもつ)が自動的に決定されるニューラルシステムを開発した。シミュレーション実験の結果,試行錯誤では発見の難い高性能なモジュール構造の探索が,本システムで可能になることを確認した.最終的には,これをヘルスモニタリングに適用して性能が改善されることを確認する必要がある.しかし,本研究期間内では残念ながらこれを達成できなかった.今後の研究課題としたい.また,特徴抽出手法として,ウェーブレット解析の代わりに最近ブラインド信号分離問題で盛んに研究されている独立成分分析の適用も検討したことを付記しておく.
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