研究概要 |
高齢化の進む我が国では,高齢者でも勤労できる産業構造への転換が国の方針として定められている.この研究では,日常生活や仕事の作業中の視覚的注意配分が年齢につれてどのように変化するか,そしてどのような困難があるのかを調べ,安全に生活でき,作業ができるように対策を考えるを目的としている. 基礎的研究の1つとして,尾道市の60歳以上の住民約2300名に対する大規模な疫学的なアンケート調査に参加した.調査の中では,視覚機能のうち,解像度・焦点調節・明暗順応・動体視力・距離知覚・黄変化がADL(日常生活の身体活動)・IADL(日常生活での道具を使う活動)にどのように影響を与えているかを調べた.その結果,解像度の低下による動体視力の減少がADLにおいて手すりを必要とする群に関連していること,コントラスト知覚の減退による距離知覚の困難がIADLに影響していることがわかった.1年目の科研費で購入したコンピュータを用いて多変量解析を行なった.この結果については現在学会論文誌に投稿する論文を執筆中である. 基礎的研究の2つめとして,視覚能力と作業との関連について,人間工学での基礎的な事実について調べ,人間工学の百科事典に執筆した.作業環境と認知的な特性,シーンに対する注意がどのように移動していくか,高齢化の影響,疲労の栄光,中心視と周辺視の視力,安全のための具体的な改善などについて述べた.International Journal of Industrial EngineeringからCD-ROMとして出版された. 高齢者の視覚認識と対象の色についての関係を調べる実験の結果から,高齢者の色知覚に関するCGモデルを開発して,認識の困難な表示部分を示すシミュレーションをおこなった.これは加齢に伴う水晶体の黄変化による色の識別困難の現象によるものであり,石原らが行なった実験データから開発した物である.この結果はInternational J.of Industrial Ergonomicsに投稿ずみで,現在査読中である.
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