研究概要 |
2年度目にあたる本年度は,継続して関東地方における染織業の分布を調査するとともに,現地における環境調査の実施,また関東地方以外の地域を比較対照として徳島県吉野川流域において,歴史的背景・地域性などが地場産業にどのような影響を及ぼしているかについて検討を行った. その結果,以下のことが明らかとなった. (1)関東地方における染織業の分布形態は,その工芸手法や地域によっていくつかの伝播ルートが存在することが示唆された.また,それらのルートは,大河川および支流に沿った形で形成される傾向があることも明らかとなった. (2)現時点で,近年の自然環境変化が直接的に伝統産業である染織業の経営規模縮小を増長させているか否かは結果的に明確には現れなかった.むしろ,高度経済成長時代以降の日本の産業構造の変化がこれら伝統産業の盛衰に大きく影響している傾向が認められる. (3)周辺に大都市が存在せず,主たる工業地域の分布に乏しい地域では,保護する方向で伝統産業が成立している.吉野川流域で行った河川水および地下水の観測結果は,2000年度日本地理学会春期学術大会において発表した. 以上のように,水文環境自体も汚染問題という観点では社会経済的影響が相当に大きいように,染織業の分布形態についても同様の傾向が認められた. 今後,現地調査を継続的に行うことにより,地域密着型での環境変化を把握することを念頭に,(1)において認められた傾向の中からモデル地域を設定し,社会経済的背景および水文環境をはじめとした自然環境の染織業に及ぼす影響を追及していく予定である.
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