研究概要 |
河川水中の礫などの表面に付着している生物膜が河川の自浄作用と大きな関わりを持つことはよく知られているが,その機能などの定量的な把握はほとんど行われていない。本研究では、まず、河川水中における生物膜の形成速度や形成量が季節によってどの程度異なるのか、また、それらがどのような自然環境要因に左右されるのかを調査した結果、(1)付着した基材としてのスライドガラスを河川水中に沈設後,少なくとも2週間以内にはが生物膜を形成され始め、その中には藻類も存在すること、(2)形成された生物膜は一定の量を保つとは限らないこと、(3)生物膜中の微生物密度および藻類密度は共に必ずしも地点や季節によって一定の値を示すとは限らず、空間的にも時間的にも変動するものであること、が示された。このように、本研究で用いた3つの生物指標(糖類量、ATP量、クロロフィルa量)は測定が簡便である上、生物膜の形成過程や状態を知る上で定量的かつ有用な情報を提供するものと考えられた。 ついで農薬等の化学物質の分解との関わりについてPropanilをモデル化合物として検討した。その結果,いずれの季節および地点で形成された生物膜もpropanil分解活性を有していたことから、propanil分解微生物は地点や季節に関わらず生物膜中に常在する微生物群の一員であると考えられる。一方、繰り返しpropanilに暴露したところ、分解時間が短くなる場合があり、一度暴露されると分解酵素が誘導されるか、分解菌数が増加することによって、あるいはその両方によって、その後の分解はラグ期なしで開始され、分解速度も増高することが示された。また本研究では、この他にも生物膜による農薬の分解に関していくつかの興味深い知見が得られた。今後、さらにその分解微生物を特定し、分解機構等に関する詳細な研究が必要である。
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