研究概要 |
多剤耐性菌MRSAの特効薬であるバンコマイシンにも耐性菌VREが出現したことに着目し新規抗菌剤のデザインと合成をおこなった.糖化学の分野で特に研究が先行していたマツチバレント化合物の概念を一般の天然有機化合物に拡大して適用した.すなわち,バンコマイシンをリガンドとするポリマーを合成した.まず,バンコサミンのアミノ基に還元的アルキル化によってノルボルネン単位を導入し,続いてGrubbsらのルテニウム触媒を用いて開環メタセシス重合をおこなった.重合条件は相関移動触媒を加えたエマルジョン条件と,メタノール溶媒中での溶液条件を検討した.その結果,エマルジョン条件の方が平均重合度が高くなった.得られたバンコマイシンのポリマーを種々の細菌に対する抗菌性を評価した. メタノール条件で重合したポリマーはS.aureusに対する抗菌力を保ったまま,バンコマイシン耐性菌(VRE)に対しても強い抗菌性を示した.特に,Van Bタイプの耐性菌に対しては元のバンコマイシンの60倍もの活性増強が見られた.これらの成果は日米英各国化学会会員誌,新聞等でニュース報道され大きな注目を集めた.母体となるバンコマイシンと同様にグラム陰性菌には抗菌力を示さなかった. 以上の成果を基に構造活性相関についての研究を開始した.重合度と活性の相関を調べる目的でポリマーの分子サイズによる分離条件を検討した.また,ポリマーと受容体との相互作用についても検討を開始した.
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