研究概要 |
大腸菌抽出液を用いる無細胞タンパク質合成系に関して,これまでの研究成果により,合成量は,生細胞を用いた発現系に匹敵するレベルにまで達している.さらに,無細胞系では,PCR増幅したDNA断片を,そのままタンパク質合成の鋳型として利用できるため,目的DNA断片の発現ベクターヘのクローニングという,従来必要であった煩雑な操作を経ることなく,コードされたタンパク質を調製することが可能である.そこで本年は,無細胞タンパク質合成系を核として,多数のDNAにコードされたタンパク質を,同時並行的に迅速に発現調製する,high throughputタンパク質発現系を確立することを目指した. 系の流れとしては,各々のcDNA断片に固有のプライマーセットを用いた1段階目のPCR反応と,発現調節配列(プロモーター,ターミネーター,SD配列など)やTag配列(His-tagやGST-tagなど)を持つ共通プライマーセットによる2段階目のPCR反応を,引き続きおこない,発現用の鋳型DNA断片を作成する.次に,この鋳型を用いた無細胞タンパク質合成により,DNA断片にコードされたタンパク質を発現して解析する.すべての反応は,96穴マイクロプレート上で行い,多数試料の同時処理を可能とする. 実際に,無作為に選んだマウスのcDNA 87クローンを,His-tag fusionの形で発現した結果,0.1mg/ml以上の比較的高い合成量が,24クローンについて得られ,また,クローン中で最も大きな分子量214kDaのタンパク質の合成も確認できた.さらに,目的cDNAクローンのPCR増幅から開姶して,発現量や可溶性の解析結果を得るまでに必要な時間は約12時間と,極めて短時間であった.この結果から,多数のタンパク質を,同時並行的に,迅速に発現調製する系を確立できたと考えられる.
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