研究概要 |
本研究では,ATP合成酵素(F_0F_1-ATPase)におけるH^+輸送とATP合成(分解)の間のエネルギー共役機構の解明を目的として,F_1およびF_0F_1の複合体におけるγサブユニットおよびcサブユニットオリゴマーの回転を,それぞれのサブユニットに結合したアクチンフィラメントの回転によって観察した. γサブユニットのγSer-193をCys残基に置換し,ビオチン-PEAC_5-マレイミドにてビオチン化した後,ストレプトアビジンを介して,ファロイジンでラベルしたアクチンフィラメントを結合した.α_3β_3複合体をガラス板に固定して,定常状態のATPase反応が起こる条件でATPの加水分解によるアクチンフィラメントの回転トルクを測定したところ,野生型F_1では約40pN・mが得られ,ATPの加水分解のエネルギーが非常に効率よく回転に変換されていた.同じ実験を,エネルギー共役機構の損なわれている,γMet-23→Lys変異を持つF_1を用いて行ったところ,野生型F_1と同様のトルクが得られた.したがって,γMet-23→Lys酵素は,γの回転による仕事量がH^+の輸送の仕事に伝達されにくい変異酵素であることが明らかになった.次に,H^+輸送路を形成するcサブユニットのα_3β_3複合体に対する回転を観察した.cサブユニットにCys残基を導入し同様にアクチンフィラメントの回転トルクを測定したところ,野生型のF_0F_1では,cサブユニットオリゴマーはγサブユニットと同様のトルクでα_3β_3複合体に対して回転していることが明らかになった.すなわちγサブユニットとcサブユニットは酵素内の回転子であり,それらが共に回転することが触媒とH^+輸送の共役に重要であると考えられる.以上の成果はProc.Natl.Acad.Sci.USAおよびScienceに報告した.
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