研究概要 |
遺伝情報の編成やDNA修復において重要である相同的組換え反応は,細菌ではRecA蛋白質が担っている。組換え反応の全容解明には,各々の素反応の詳細な解析,特に速度論的な解析が必要である。しかし,RecAの場合、反応過程を経時的に研究した報告はほとんどない。本研究では,複数の蛍光プローブを導入したDNAを用いて,蛍光の共鳴エネルギー転移を利用したDNA鎖の相互の配置の動的変化すなわち組換えの速度を推定し,組換え反応過程の経時的な変化を追跡することを試みた。まず,標識可能なアミノ基やチオール基を持つデオキシヌクレオチドを用いて二種類の蛍光標識化DNA(50-mer)を人工的に合成した。一方は分子中央にテトラメチルローダミン(R)を,もう1つは5'端にフルオレセイン(F),3'にテキサスレッド(T)を導入した。大腸菌RecA蛋白質は,すでに構築してある大量発現系を用いて調製した。次に,R-一本鎖DNAとRecAの相互過程を蛍光スペクトルを用いて測定したところ,少なくとも2つの結合相が観察された。このR-一本鎖DNA-RecA複合体にF/T-二本鎖DNAを加え,Rの励起光で励起したところ有意な蛍光スペクトル変化が見られた。反応前後の差スペクトルは,ほぼTのものに相当した。さらに,Tの蛍光波長で時間変化を測定したところ,大きく2つの相が見られた。このように,今回構築した測定系でRecA-一本鎖DNA複合体と二本鎖DNAとのペアリング反応を,蛍光エネルギー転移を利用して実際に測定できることが示された。
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