本研究は、たんぱく質の微細な構造の動きを機能と関連づけて解析することを目的とし、たんぱく質中の特定のアミノ酸残基を同位体でラベルするための普遍的かつ効率の良い手法の確立を目指すものである。材料としてシトクロムP450camを用いており、我々は既にこのたんぱく質へ部位特異的に人工アミノ酸を導入し、その機能解析に成功している。部位特異的同位体ラベル法は人工アミノ酸導入法と基本的には原理・操作を同じくするが、いくつか検討、修飾を要する所があり、今年度は以下の点に取り組んだ。 1.本手法では無細胞系でたんぱく合成させるため、合成効率が低いのが問題である。我々は既にかなり高い合成効率(1mlあたり機能たんぱく質5-10μg)を得ているが、経済的・労力的にも更に効率よい合成法が必要とされた。そこで今までの閉鎖系に代わり、透析膜を用いた連続合成系を用いることにより、反応時間を従来の1時間から20時間まで継続させ、その結果回収量が約10倍上昇し、大幅な効率化をはかることができた。 2 ラベルしたアミノ酸を部位特異的に導入するためには、導入部位のDNAをアンバー終始コドンに変異させ、ラベルしたアミノ酸を結合したアンバーサプレッサーtRNAを加えてたんぱく合成する。従来法ではアミノ酸とtRNAとを有機合成的に結合させるが、多段階かつ煩雑で多量(数百mg)のアミノ酸を要した。今回は、同位体ラベルした天然型アミノ酸を用いることを考慮して、より効率が良いと思われるアミノアシルtRNA合成酵素を用いた調製法の開発を試みた。先ず、天然のtRNAへアミノ酸と大腸菌及び酵母由来の当酵素を添加することにより、アミノアシルtRNAが調製できることを確認した。次にDNAから試験館内合成したアンバーサプレッサーRNAを用いて酵素法でのアミノアシルtRNAの合成を試み、より効率よく合成できる条件を検討している。
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