我々は自己リン酸化したVEGF受容体に結合する分子を、酵母two-hybrid systemによりスクリーニングする過程で、vav遺伝子ファミリーの新規の遺伝子vav3、アダプター分子Nckと相同性を有するNck2を単離し、特にvav3に関する解析を行った。vavは低分子量Gタンパク質に対するGDP/GTP交換活性を有するDb1 homology domainの他、Calponin homology domain、SH3 domain、SH2 domainなど多数のモチーフ構造を有するタンパク質であり、血球系の細胞内シグナル伝達において機能することが示されてきたが、近年vav2が単離され、遺伝子ファミリーを構成し、様々な細胞で働きうると推測されてきた。我々が単離したvav3はアミノ酸配列においてvav1、vav2とそれぞれ58%、53%同一であり、そのmRNAは血球系に主に発現する6kbのvav3α、および胎盤、腎臓、膵臓などに高いレベルで発現する3kbのvav3βが観察される。タンパク質の発現の詳細な解析の結果、vav3αはvav遺伝子ファミリーに見られるすべてのモチーフ構造を含み、多くの血球系細胞において発現するのに対し、vav3βはSH3-SH2-SH3の構造だけを含み、そのタンパク質の発現は非常に低いレベルであることが、明らかになった。vav3 mRNAの発現は血管内皮細胞では低くVEGF受容体と共役して機能するとは考えにくい。そこでVav3タンパク質のの生理的機能を探るため、血球系細胞のシグナル伝達における役割を調べたところ、Vav1が細胞の増殖刺激によりチロシン残基のリン酸化を受けるのに対し、Vav3は非刺激時のリン酸化レベルが低く、増殖刺激によってもリン酸化の亢進は観察されなかった。Vav1とVav3はともに血球系に主に発現するにもかかわらず、異なる活性化の制御を受けていると考えられ、現在その詳細な機構を検討している。
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