研究概要 |
ニワトリの中脳は背側の視蓋(tectum)と腹側の被蓋(tegmentum)からなり、視蓋が網膜からの視神経投射を受けるのに対し,被蓋には運動機能に関わる神経核が分化する。発生において視蓋は3日胚前後から拡大して細胞増殖を続け、5日胚から左右に分かれてさらに大きく膨らみ、視蓋に特徴的な層構造を形成する。これに対し被蓋では比較的早い時期から神経分化が進んでおり、視蓋と較べて細胞増殖は抑制されている。中脳背腹軸上でのこうした増殖分化・細胞タイプさらには組織形態の違いがどのように制御されているか調べるため、脊索および底板で発現するSonic hedgehog(SHH)に着目してin ovoでの強制発現実験をおこなった。 エレクトロポレーション法により1.5日胚のニトリ中脳胞領域にuni-lateralに遺伝子導入すると、基板および翼板全体にSHHが異所的に発現された。導入された領域では中脳視蓋で発現する遺伝子が抑制され、さらに細胞増殖が抑制された結果、翼板から分化する視蓋が縮小した。また蓋板で発現する遺伝子の発現が一部消失し、その後も蓋板の構造が失われて左右の視蓋が融合した。網膜から視蓋への視神経の投射は減少し、投射領域も縮小していた。一方で被蓋では床板、運動神経、介在神経のマーカーが異所的に誘導され、本来の動眼神経とは別に多数の運動神経が生じた。またドーパミン産生およびセロトニン産生神経が背側に拡大した。これらの神経分化はSHHによりnon cell autonomousに進むことがわかった。 以上の結果はSHHが細胞増殖・分化を抑制して、被蓋での細胞タイプの決定や予定視蓋領域の決定に働くことを示している。
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