研究概要 |
本研究は、細胞老化に伴い増殖因子に対する増殖応答性が減弱することに着目し、老化により細胞内情報伝達系にどのような変化が生じ、増殖シグナルが減衰したのかを解析した。現在までに、その作業仮説として 1)情報伝達効率を低下させる介在分子の存在、 2)増殖因子受容体またはエフェクター分子の変化、が考えられる。さらに近年、3)分子そのものの変化を説明するメカニズムとしてRNAエディテング(編集)、がクローズアップされてきた。すなわち、ゲノムDNAは変化がないが、mRNAのアデニンがグアニンへと置き換えられる結果、アミノ酸一次構造を変化させるものである。このような現象が起こると,結果として分子間の相互作用やシグナル伝達など、タンパクの機能が変化することになる。そこで、本研究ではこのエディテング機能のターゲットとして増殖因子PDGFの受容体に着目した。PDGF(BB)受容体はαとβサブユニットから構成されており、αα,αβ,ββ,3種の二量体を形成する。αとβそれぞれのinternal domainについて老化細胞で発現するmRNAを材料としてcDNAクローニングを行いDNAシークエンスによる解析を行った。その結果、老化細胞からは、若年細胞とは異なるシークエンスを有する変異クローンが複数個得られた(論文投稿準備中)。現在、これらの変異がRNAエディテングによる変化であることを確認しているところである。上記の変異はタンパクの一次構造に変化を及ぼす変異であることが予想されている。 現在、これらのPDGF受容体遺伝子の変異が、増殖シグナルの減弱化にどのように関与しているのかを検討中である。すなわち、老化細胞で見出された変異タンパク質を若年細胞に発現させ、増殖シグナルへの応答がどのように変化するのか、培養細胞を用いて解析を進めている。また、エディテング酵素活性を測定し、エディテングが発生するメカニズムについても考察する予定である。老化という生理現象についてRNAエディテングという観点からのアプローチは、現時点では未開拓の分野であると思われる。今後の研究により、細胞老化とRNAエディテングとの関連をさらに解析することが重要であり、その成果が期待される。
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