研究概要 |
本研究は,良好な視環境を有する生活環境の創造を意図し,評価者の個人特性を考慮した地域景観評価手法を導出するための基礎的資料を得ることを目的とする。このために,地域景観に対する人間の認知・評価について,視覚刺激としての受容後,物的構成など客観的事象を過去の経験や記憶に基づいて認識し,さらに個人の嗜好や価値観などとの照応によって評価に至る一連のプロセスを想定し,河川景観並びにみどり景観を評価対象とする被験者実験を実施し,地域景観の心理的評価に及ぼす個人特性による影響を明確化するとともに,上記モデルの検証を試みた。ここで,個人特性としては被験者の出身国による社会・文化的背景の相違を採用した。 河川景観評価実験は,日本,中国,英国の被験者に対して国内外24種の景観をスライド呈示し評価を求めた。心理的評価の傾向や評価構造の特徴を把握した後に,景観の物理的特性と評価との関連に個人特性の及ぼす影響を検討するため,水面や空,建物などの構成要素が景観中に占める面積比を指標として3国間で比較した。その結果,建築物や緑など具体的内容に関する個別的評価では,物理的指標の影響はほぼ共通するが,景観全体の印象に関する総体的評価では,日本,中国と英国では差異が認められ,初期の認識の段階は共通性が高いが,情報が統合され総体的な評価が下されるプロセスは個人特性によって相違する可能性のあることを示唆された。 みどり景観評価実験では,日本人大学生,中国人留学生を被験者として,心理的評価のほかにアイカメラによる眼球運動測定を行い,注視点数や注視点の平面的な散らばりに多少の差異はあるものの日本と中国の注視特性が概ね類似し,経時的変化の検討によって特に初期の認識段階の反応が個人特性によらずほぼ共通することを示した。ただし,注視特性と心理的評価の関連では一般的な傾向は認められず,今後の検討の必要性を指摘した。
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