研究概要 |
本研究では人間の被験者における加齢による色弁別能力の変化を,心理物理学的手法により測定した。可視光領域全域での波長弁別閾値は,年齢とともに増加し,若年者(平均31歳)と高齢者(平均79歳)の間で統計的に有為な閾値上昇が見られた。これは網膜上の光強度を一定に調整しても,加齢とともに色の弁別能力が低下することを示す。米国でも共同研究としてデータを取ったが,人種的影響(瞳の色など)は統計的には現れなかった。結果を色弁別モデルを用いて解析したところ,従来明らかであった黄青反対色メカニズム(S錐体)のみならず,赤緑反対色メカニズム(L・M錐体)においても感度低下が見られた。また,相対ノイズ上昇は,黄青では大きな悪影響を与えているが,赤緑では微小であった。加齢効果をパラメータ値変化で表現するというモデル化の目的は,S錐体依存の弁別においては達成された。その一方,L・M錐体依存の弁別の方は,ノイズ量だけではなく,年齢によらず被験者間で大きく異なる2つの余分なパラメータ,L・M錐体の網膜上での比,赤緑反対色メカニズム信号と輝度チャンネル信号の比,が寄与していることから,定式化が難しいことが逆に示された. 水晶体の加齢による濃度増加にもかかわらず,信号増幅により色の見えは相当程度安定である。しかし,錐体からの信号を増幅する結果,自発自火などの生体ノイズも増幅するためにS/N比は悪化する。よって色信号が弱くなるような色領域では,水晶体濃度を補正しても色弁別が悪化するという原理が発見された。色の見えが安定している為に自覚されることなく色弁別が悪化する点が問題である。高齢者に優しいインターフェースを考えると,色信号が弱くなるような白色中心の色弁別が必要な配色を避け,赤・緑・黄色・青のうち色弁別に用いられる色信号が比較的高くなるような配色を用いるのが適切である。
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