研究概要 |
海岸の地下水脈という暗黒世界に生育する原生生物の多様性の実体を明らかにし,さらに分子系統学的手法を用いてそれらの起源について探ることを目的とした研究である。主なフィールドは北海道石狩市石狩浜で,月に1回の割合で定期的に調査をおこなった。トランゼクトを設定しそれに沿った5地点を採集地点とし,原生生物の採集とともに水温,塩分濃度を測定した。主な研究対象は渦鞭毛藻類とした。海岸地下水脈は塩分濃度的には海水と陸水が複雑に拮抗する非常に不安定な環境であることがわかった。一般的には塩分濃度の高い地点で出現数が多かったが,広い塩分濃度範囲に適応した種もいくつか認められた。種組成の季節変化も見られ,水温の高い夏に種数は減少するという傾向があり,一方水温が零下となる冬期には多様な渦鞭毛藻の出現が確認された。分類学的な調査の結果,Amphidinium11種,Gymnodinium2種,Gyrodinium3種,Katodinium4種,Sinophysis1種,Roscoffia1種などの出現が確認された。これらはいずれも葉緑体をもたない従属栄養性の種であった。新種に関しては別途正式に発表予定である。 分子系統学的解析には単細胞PCR法を採用し,そのための諸条件を検討した。結果,アニ―リング温度を低く,時間を長くしたサイクルを通常のサイクルの前に置くことで遺伝子の増幅が可能になる場合があることがわかった。今回はGyorodinium viridescensで18SrDNAのほぼ全長を解析し各種方法で系統樹を構築した。その結果,本種が独立栄養性で,砂地性渦鞭毛藻類であるAmphidinium spp.から派生している可能性があることがわかった。このことは本種は二次的に葉緑体を失ったこと,Gyrodiniumに特有な形態はAmphidinium型の細胞から進化した可能性のあることを示している。
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