研究概要 |
ヒガンバナ属は東アジアに分布するヒガンバナ科の植物であり,約23種から成る.本属の植物は大型で美しい花を咲かせるため園芸植物として重要な植物であり,さまざまな野生種の交配より数多くの園芸品種が作り出されている.ヒガンバナ属植物は種子繁殖を行う2倍体有性生殖種(幹種)に加えて,種子は作ることができないが栄養繁殖により繁殖を行う無性生殖種が存在する.このような無性生殖種は,3倍体植物あるいは種間雑種起源の植物種である.このような'種'は動物ではあまり見られず,植物の種の存在様式を多様にしている原因の1つである.本研究では植物における種分化様式と種の存在様式の多様性の解明のため,無性生殖種を数多く含むヒガンバナ属において,その系統進化の歴史と種分化機構を明らかにすることが目的である. ヒガンバナ属の起源と進化を明らかにする目的で葉緑体DNAのmatK遺伝子の塩基配列を用いてヒガンバナ科内およびヒガンバナ属内の系統進化について明らかにした.その結果,1)ヒガンバナ属は他のアジア産の属と単系統であり,比較的最近分化したこと,2)ヒガンバナ属の2倍体種の系統関係は従来の核型や形態から考えられていたグルーピングと異なっていることなどが明らかになった. さらにリボゾームRNA遺伝子(45S rDNA)をプローブにしてFISH(Fluorescence in situ hybridization)法を用いることにより,それぞれの種の各染色体の構成や相同性の解析を行った. その結果,リボゾームRNA遺伝子クラスターが動原体部位とB染色体上に存在していることが明らかにった.また,動原体部位のリボゾームRNA遺伝子クラスターをマーカーにして,各種の持つ核型間の進化的関係について考察を行った.その結果,本属においてRobertoson型の染色体変化が起きていることが示唆された.
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