研究概要 |
伊豆諸島にはオカダトカゲが,日本列島にはニホントカゲが分布するとされていた従来の考え方が,アロザイム分析の結果否定され,伊豆半島の集団がオカダトカゲに近いことが明らかになった.そこで本研究では伊豆半島のオカダトカゲ集団とそれ以外の地域のニホントカゲ集団の分布境界を明らかにし,それら集団間の遺伝的な関係を探ること,さらにニホントカゲとオカダトカゲの間で繁殖行動について実験をおこない,種分化の実態を明らかにすることを計画した.昨年度のフィールド調査から,オカダトカゲは伊豆半島からさらに分布を広げており,西は富士川,東は小田原と鎌倉の間に,2種の分布境界が存在することが明らかとなった.アロザイム分析の結果からは,小田原のオカダトカゲ集団の中に1個体だけ雑種が発見された. 昨年度の行動実験は,春先が異常に温暖で繁殖時期が早まったため,実験時期が繁殖期の終期になり,はっきりした結果が得られなかった.今年度は九州大分県産のニホントカゲ,伊豆諸島御蔵島と神津島および小田原産のオカダトカゲ雄に対する京都産ニホントカゲ雄の繁殖行動を観察することができた.その結果,京都産のニホントカゲ雄のニホントカゲとオカダトカゲに対する行動の違いが明かにされた. コントロールの京都産ニホントカゲ雄と大分産ニホントカゲ雄に対しては,正常な攻撃行動が見られたが,オカダトカゲに対しては伊豆諸島産も小田原産に対しても,まったく攻撃行動が観察されなかった.逆にオカダトカゲ雄に対して,求愛行動をおこなう個体も見られた.これは,ニホントカゲの雄がオカダトカゲを同種の雄として認識できないことを示唆している.また,これらの結果は,小田原の集団が行動学的な観点からもやはりニホントカゲではなく,オカダトカゲであるとする考えを支持している.このような結果はこれらの2種が生物学的種として分化していることを強く示唆するものである.
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