研究概要 |
イネ科の一年生草本でコムギの近縁野生種である,エギロプス属シトプシス節(Aegilops section Sitopsis)の5種を対象に,自然集団での遺伝的多様性を遺伝子および染色体構造の両面から明らかにすることを目的とした。これらは地中海の東岸地域に分布するが,使用したサンプルはイスラエルおよびエジプトの自生地から収集したものである。 1)染色体構造では,適切な手法を選択するために雑種の染色体対合・C-バンディング・数種のDNAプローブを用いたFISHなどの予備実験をおこなったが,従来の知見と比較して特に新しい情報は得られなかった。 2)シトプシス節に属する5種についてアイソザイムを使った遺伝的変異を調査し,それらがより近縁な4種,Ae.bicornis,Ae.longissima,Ae.searsii,Ae.sharonensisと,それらとはやや類縁関係の離れたAe.speltoidesの二つのグループに分けられることを明らかにした。なおそれぞれの種の集団間の遺伝的分化については,今後一層の研究が必要である。 3)コムギ・エギロプス属植物において,アイソザイムの標準的な実験手法を確立した。これによって従来報告されていた10〜15酵素を含む26酵素が利用可能となり,さらに異なる種間での比較が容易になった。 4)エギロプス属コモパイラム節の2種,Ae.comosaとAe.uniaristataのアイソザイム変異の解析を初めて行ない,この二種が遺伝的に大きく異なっていることを明らかにした。またAe.comosa種内は形態から二つの亜種に分類されているが,亜種問でアイソザイムの差異はほとんど認められなかった。 5)Ae.umbellulataにおいて,アイソザイムを使った遺伝的変異の解析を初めて行なった。この種は西南アジアの大陸部(イラン・イラク・トルコ)のほか,エーゲ海東部の島嶼部に分布している。遺伝的変異から推定した地域間の系統関係は,地理的な位置関係とよく対応していたが,ギリシャ島嶼部は大陸部よりかなり離れていて,海による地理的な隔離のあることが推定できた。
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