研究概要 |
栽培植物への栽培化と雑草としての特殊化の適応現象を解明するために,中国雲貴高原を中心として収集したヒエ属植物について世界各地産の系統と併せて遺伝的多様性を分析した。イヌビエ群E.crus-galli,タイヌビエ群E.oryzicolaおよびコヒメビエ群E.colonumという生物学的種のアイデンティティは,アイソザイム分析とRAPD分析によって確認され,trnT-L-F遺伝子の非コード領域の分析もそれを支持した。標本調査,比較栽培,DNA分析によって大量の系統について形態的特徴と遺伝的特徴の地理的・生態的分布を検討したところ,DNA変異は産地の距離に依存した変化を示した。栽培化症候は,イヌビエ群では地理的・生態的に広く分布する傾向を示し,タイヌビエ群では限られた分布を示した。雑草としての適応は,擬態化と難脱粒性の獲得に顕著であり,イヌビエ群とタイヌビエ群に平行してみられた。実生の擬態は両者にみられ,タイヌビエでは葉耳状の毛茸をも発達させた。難脱粒は天水田,灌漑田,陸稲田の打ち付け脱穀と並行してみられ,擬態型を含むタイヌビエはE.persistentia,難脱粒のイヌビエはE.oryzoidesと分類学的に扱われていたものに該当した。シーケンスとRAPD分析の結果を適切に統計処理することにより,アジアとアフリカのE.stagninaが異なった系譜をもつことなど,分類群の類縁関係を明瞭とし,自然群の認識とタイプ標本のアイデンティティを明確化し学名の扱いを再検討するのに必要な基盤情報を得た。報告書ではこれらの成果を線画を含む図16葉,表5葉,写真8葉を掲載し,20ページにまとめた。
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