研究概要 |
高度情報通信社会においては,小型軽量かつ高速大容量のマルチメディア携帯情報端末が必需品となる半面,これらのハイテク機器は電磁ノイズに対して極めて脆く,その誤動作の多くは静電気放電(Electrostatic discharge:ESD)で発生する過渡電磁界によって引き起こされている.特に,金属パイプ椅子,搬送ロボットなどの帯電金属体のESDは強い電磁界を発生することが知られており,例えば,米国のWilsonとMaは,金属平板近くで起こした金属球間のESDから1.5m離れた場所において150V/mという強い電界を測定している.このようなESDによる強電磁界の発生機構を解明するにはESD電流を定量的に把握することが不可欠であるが,放電経路を流れる電流の測定は一般には極めて困難である.本研究の申請者は,点波源としたESDによる発生電磁界を,Rompe-Weizelの火花抵抗則から誘導される火花電流のダイポールモデルで解析し,界の距離依存性,放電ギャップ長依存性を既に解明した. 本研究課題の目的は,上述成果に基づきESD界のシミュレーションコード開発とESD電磁障害策の確率にある.研究結果の概要はつぎのとおりである.平成10年度においては,帯電金属体の火花放電がつくる過渡電磁界の時間領域差分(Finite-difference time-domain:FDTD)法による数値解析から発生電磁界の伝播状況,距離特性,金属体形状などの依存性を明らかにし,帯電金属体形状が発生電磁界に及ぼす影響を事前予測するためのFDTD法に基づく数値コードを開発した.しかしながら,同解析法では放電開始前の静電界は計算できず,それ故に帯電金属体によるESD界の全容を把握することができないと云った欠点があった.平成11年年度においては,火花電圧を励振源とするFDTD数値解析アルゴリズムを開発し,金属球体間の火花放電による発生電磁界を解析,数値結果を火花電流を波源としたそれと比較・検討した.その結果,電界波形は,火花電流を波源とした解析法では静電界が計算されないが,火花電圧を波源とした場合には金属球体面を同電位とするイメージ電荷対による解析結果とほぼ一致し,静電界の計算が可能であることがわかった.一方,金属球間の火花放電に伴う電界波形を1.5GHzの広帯域ディジタルオシロスコープで観測し,それが火花電圧を波源とした計算波形にほぼ一致すること,イメージ電化対による解析結果とは球体サイズが大きい場合には一致しないこと,なども確認できた. 現在,任意形状の帯電金属体によるESD界に適用可能なFDTD解析用アルゴリズムを構築する一方,ESD電磁障害の低減策を目的としたフェライトコア装着金属体間ESDの界レベル低減効果をFDTDシミュレーションと火花実験の両側面から調べている.
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