研究概要 |
本研究課題は,損傷部より中枢の硬膜表層の脊髄(神経)電位信号を最新LSI技術と適応学習理論を応用して計測・情報処理を行い,電動義装具を各個人の特性に適応しながら制御する方法論を構築することで,失われた運動機能を回復するための技術的バックアップを目指すものであるが,その構築のために重要な要素となる,適応型分離法の提案,FPGAによる制御機能の電子回路上での再構築,脳からの全く新しい伝達経路形成として,ラットを用いた電気生理学的実験により脳硬膜上で計測された電位の分類,また計測電極としてマイクロマシニング技術を用いた多点電極の開発,に関してえられた成果を以下にまとめる. 1.個体差を含む神経信号としてヒト筋電に対して適応学習理論を用いて神経信号の分離を試み,義手に応用した.これにより,適応学習理論が,生体信号の各個人への適応,安定した信号の分類が可能であることが確認された. 2.ラットを用いた電気生理学的実験において,感覚野直近の硬膜上から麻酔下で刺激誘発電位の計測を行った.また,計測された電位の時系列データに対して,適応学習理論に基づいてオフラインで信号分離実験を行ったところ,刺激に応じた認識クラスタの生成が確認された. 3.同様の手法を用いて,下肢運動制御に関与する運動野第一層上の頭蓋部に固定した電極による計測を行った結果,下肢の運動に対応した電位信号の分離抽出が可能であることを確認した. 4.脊髄部硬膜上の電位計測については,電極の挿入方法に関する試行錯誤の段階にあり,ワイヤー状電極,多点電極について実験を行っているが,特に多点電極については,マイクロマシニング技術を応用し挿入型多層多点電極の形成を行った 5.情報処理回路システムとして,FPGA(Field Programmable Gate Array)を用いることにより,特定の写像関数を合成できることと,その実験システムの構築を実施した.実験では,このシステムを用いて,学習理論を用いた情報処理回路を合成可能であること,および,情報処理回路を並列化して実現可能であるために,効率的に高速処理が実現されることが確かめられた すなわち本研究の結論として,各個人の神経信号の特性に適応しながら実時間での信号分離を行う装置の開発を目指し,神経信号の適応分離法を構築,実時間処理のためのFPGAによる学習理論を用いた情報処理回路の合成可能であることを示したことによって,また,動物実験の結果を併せ,個人に適応した硬膜上の神経信号分類による知的電動義装具構築のための足掛かりを築き,これらの成果を論文等への公表を行った.
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