研究概要 |
痙性(spasticity)とは,脳血管障害片麻痺患者などにおいて認められる筋緊張の亢進した状態であり,上肢であれば屈筋群の痙性によって,肘関節の屈曲,前腕の回内,手指の屈曲などの肢位をとりやすく,下肢であれば,足関節の底屈・内反の肢位をとりやすい.そして,これらの痙性や随意性の低下などの機能障害によって,食事動作や歩行動作などの日常生活動作が障害される.痙性の臨床的な評価法としては,一般的に徒手による他動的伸張に対する抵抗を検者が主観的に感じ取って順序尺度に分類するModified Ashworth Scaleなどが用いられている.しかし,このような主観的な評価法では,痙性の質的・量的な特性を客観的に解析することが困難であるとともに,再現性に関しても低いため,物理療法や運動療法による痙性の変化を科学的に検証することが困難である.そこで,本研究では,臨床場面において痙性の特性を客観的に測定することができる簡易的痙性測定装置を開発し,臨床応用の可能性を検討することを目的とした.簡易的痙性測定装置は,圧ひずみセンサーを装着したプレートと固定用ベルト,そして,アナログ出力から構成した.痙性の測定方法は,検者の手掌面にベルトでプレートを装着し,次に,プレートを被検者の前腕遠位部にあて,他動的に低速,中速,高速で肘関節を屈伸した時の抗力をアナログ信号で導出することによって実施した.導出したアナログ信号は,サンプリング周波数1kHzでパーソナルコンピュータに取り込み,多用途生体情報解析プログラム(キッセイコムテック製,BIMUTAS II)を用いて解析を実施した. その結果,本測定装置を用いた解析法により,他動的伸張刺激に対する抗力の特性を量的な振幅値と,質的な波形特性の両面から解析することができたため,脳血管障害片麻痺患者を対象とした痙性の簡易的な臨床評価法の1つとして,有用であることが示唆された.
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