研究概要 |
在宅生活が自立できる高齢者と老人保健施設に入所が必要な要介護高齢者を対象に,歩行能力とADLおよびQOLの関連性を検討し,各対象に対する指導方法を検討した. 自立が可能である在宅高齢女性27名(平均年齢:67.5±6.0歳)の歩行能力は,6分歩行距離(6MD)として60歳代で560.9±35.4m,70歳代で478.4±85.9mであり,歩行能力は下肢および上肢の身体機能,柔軟性および平衡性を敏感に反映し,ADLに関与することを示した.一方,老健施設に入所中の65〜95歳の寝たきり高齢者を除く要介護高齢女性24名(平均年齢:81.3±8.1歳)の6MDは196.0±71.8mと低下し,平衡性を示す開眼片足立ち,開眼時の重心動揺軌跡長と有意な相関を示し,生活体力の起居能力とも相関した.要介護高齢者の身体機能およびADLの低下には,筋力の低下に加え,平衡性の低下が強く関与していることを示した.さらに自立が可能である身体機能として,6MDでは平均350m,握力15.4Kg,Kraus-Weber18.5,長座体前屈5.0cm以上の能力が必要であり,また開眼片足立ちでは21.9秒,10m障害歩行時間9.2秒以内の能力が必要であることを示した. 在宅高齢女性12名(67.1±5.0歳)に対しては,有酸素運動を主とした訓練を,要介護高齢者16名(83.9±5.2歳)に対してはバランス訓練を一時間/回,週3回,10週間にわたって指導した.その結果,在宅高齢者では身体組成,体力に加え,抑うつ度と主観的幸福度等の精神的機能の改善が認められた.要介護高齢者では,平衡機能,下肢筋力および姿勢調整能力の改善を導き,その結果として転倒予防につながる可能性が示された. 以上より,在宅での自立した生活の維持のための身体機能を保つためには歩行を主とした有酸素運動の訓練が必要であること,さらに歩行能が低下した高齢者でもバランス訓練はADLの保持,転倒予防や寝たっきり防止のために有用であることが認められた.
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