研究概要 |
前年度の研究によって,ゾウやチンパンジーなどの動物園動物の行動は,野生状態の行動に比べて行動レパートリーが少なく単調であることがわかった.本年度はこれらの動物をより自然に近い行動に近づけるための方法を追求するために,ヒグマ,ライオン,チンパンジーなど9種の動物について,飼育環境と給餌方法がこれらの動物の行動にどのような影響を与えるかを分析した. その結果,これらの動物園動物の行動には顕著な季節的変化が見られないこと,その原因は飼育環境が自然環境に比べて著しく単調であることがわかった.またエゾヒグマ,インドゾウ,チンパンジーでは,給餌条件を変えることによって採食時間が長くなるとともに,行動レパートリが多くなることが明らかになった.特にチンパンジーは従来の飼育条件下では,採食行動に昼間の時間の14.93%,餌の探索にはわずか0.34%しか費やしないが,ジュース飲み装置を用いるなど,給餌条件をいろいろ変えた結果,採食行動の時間が顕著に長くなるとともに,採食行動の多様性が高まった.また5頭のチンパンジーのうち,3頭が木の枝などを道具として用いてジュースを採食した.あるチンパンジーは木の枝以外にワイヤーなど複数の物体を道具として使った.さらに道具使用を通して個体間に新しい社会関係も生起することが分かった. チンパンジーについては若齢個体の社会行動の発達を追跡観察しているが,現在のところ日常の個体間の社会的相互作用が個体の行動発達に影響していることが示唆されている.また人間に対しても,人の性,年齢,社会的関係などによって異なる対応をとるようになることが分かった.
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