本研究では、思いやり行動に関する認知的要因について、主として必要性ならびに自己責任性にかかわる認知的要因という2つの観点からアプローチし、それらの構造に関して明確化することが目的であった。そこで研究1では思いやり行動(愛他行動)を明確化するために、必要性および自己責任性にかかわる要因を取り上げ、愛他行動を構成する要因についての尺度構成を試みた。その結果4つの因子が見出された。第1因子は、愛他行動をしないために、その根拠となる項目が集まった「抑制・消極」であった。第2因子は、愛他行動をすることための内的規範が関連した項目が集まった「良心・規範」であった。第3因子は、愛他行動を受ける相手との関係性を根拠とした項目からなる「互恵・友好」であった。第4因子は、より広い意味での他者からの評価と関連が深い項目からなる「社会的承認」であった。そこで研究2では研究1で得られた各因子がどのような発達的変化をたどるのかについて、小学生から大学生までその変化について検討した。その結果、因子によってその発達的変化の仕方に大きな異なりがあることが見出された。抑制・消極因子は、小学生、中学生の間に若干の差が見られるもののほとんど変化しないことに対して、互恵・友好は小学生と中学生の間に大きな差が見られた。このような結果は、思いやり行動が単純に変化するのではなく、それらを構成する因子によって違いがあることを示唆しており、これらのことが思いやり行動の遂行に複雑に影響している可能性を示している。
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