自閉症児・者は他者の「心的状態」の理解に困難を示すことが知られている。他者の「心的状態」の理解を促進するためには、どのような条件が必要だろうか。本年度は、他者の心的状態の理解の中でも、最も基本的な1つである「他者の知識」についての理解、すなわち、「他者が何を知っているか、何を知らないか」の理解を促進するための条件を明らかにすることを目的とした。 対象は小学校通常学級3年に在籍する自閉症男児1名であった。テスト場面として、「神経衰弱ゲーム」をおこなった。ゲームの参加者は、カードをめくる際にヒントを要求することができた。ヒントはA、B2名が出した。Aはヒントを出す直前にカードの裏側を見て、正しいヒントを出した。Bはでたらめなヒントを出した。参加者はどちらのヒントに従うかを自由に選択できた。この場面では、Aのヒントを選択することができることを、他者の知識を理解していることと見なした。訓練場面として、「王様ゲーム」をおこなった。王様ゲームでは、(1)王様の「〜を見なさい」という命令に対して、それを正しく動作でおこなう課題、(2)演者が何かを見る動作を観察した後、「○○先生は〜を見ました」と言語報告する課題、そして、(3)箱の中身を知っている人を、箱の中を見なかった人から選択する課題、の3つを順におこなった。 その結果、対象児は課題のルールについては、テスト課題、訓練課題とも比較的容易に学習した。一方、課題の正答率については、訓練課題(1)(2)については比較的容易に100%に達したが、訓練課題(3)およびテスト課題においてはチャンスレベルに留まった。今後、課題課題(3)をより詳細に課題分析し、よりスモールステップ化して訓練を継続する予定である。
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