研究概要 |
日本語と日本手話の2言語を学習した者は,その2つの言語による語彙構造と,それらの語彙が参照する先の概念との間にどのような相互関係を形成させているのであろうか。 このことを究明するために,筆者は次のような実験を行った。被験者は、手話と日本語の二言語を獲得している聴覚障害者(手話体系が優勢と考えられる)および健聴者(日本語体系が優勢と考えられる)である。また、健聴者群を熟達群、非熟達群に分けて比較する。実験はブライミング・パラダイムによるカテゴリー判断課題を用いた。すなわち,日本手話または日本語(活字による)の単語をパソコンによってディスプレイに表示させ、これをプライミング刺激とする。一定時間後、プライム刺激が手話の場合は日本語、日本語の場合は手話による単語をターゲット刺激としてディスプレイ上に提示し、プライム刺激、ターゲット刺激が同一カテゴリーに属するか否かをできるだけ早く判断させる。被験者の反応及び反応時間はスイッチ、シリアルポートを通じてパソコン内に記録される。 手話が自然言語として認知されるには、動きの要素が含まれなければならない。従って、刺激提示は動画であることが前提となる。しかし、ビデオテープによる提示では、刺激の提示順や種類が固定されてしまい、結果からそれらによる効果を除去できなくなる。 一方、パソコンによるデジタル画像の提示はランダムに行えるので、この効果の除去が可能となる。また、手話、日本語とも被験者が理解してから反応までに時間的な余裕が与えられた場合、反応時間に天井効果が出現する。このため提示時間を閾値近くに統制する必要があるが、デジタル画像によればこれを細かく、かつ正確に行える。また、被験者の反応時間はミリ秒単位で正確に、しかも自動的に記録できる。実験データは現在、分析を続行中である。この結果は日本教育心理学会等に発表を予定している。
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