研究概要 |
本年度は研究計画の最終年度に当たり,これまで収集・蓄積した記録データの分析・解釈を中心に行った。収集したデータは,教室授業場面の映像記録(附属学校園教官及び教育実習生)及びインタビュー記録(附属学校園教官,教育実習生及び生徒)から成る。 とくに映像記録の分析からは次のような知見が得られた。実習生の授業では,生徒による「からかい」「無視」「嬌声」を単なる授業妨害として排除するのではなく,それらを授業の流れに有機的に取り込むことが「授業づくり」「教師の力量」のポイントとなること,そのために実習生にとっては,生徒との日常的なコミュニケーションが重視され,授業を離れた場面での「教育的かかわり」の構築が重視されていた。 Mehan(1979)によると,教室授業における会話構造はI-R-E(Initiation-Response-Evaluation)の枠組に沿った教師-生徒間の権力関係(支配-被支配の関係)を表象しているという。しかし本研究では,そうした否定的な側面だけではなく,むしろ「からかい」や「当惑感情」を手がかりに,互いの信頼関係が構築される様子を描き出すこともできた。 いっぽう,附属学校園教官に対するインタビュー記録からは,次のような知見が得られた。すなわち,実習指導において「問題のある実習生」が語られる場合,それは学生の資質が「現に低下している」という「実態」から一方的に構成されるだけではなく,指導者側(大学教官及び実習校指導教官)の「まなざし」によって「つくられる」側面があるということである。さらに,そうしたまなざしが,学校文化に特有の「「揃い」の規範(人間性,子ども,熱意)」を背景としていることが明らかとなった。 なお,本研究の成果については,日本教育社会学会第52回大会(於:北海道大学)及び日本教師教育学会第10回大会(愛知教育大学)における発表要旨集録に掲載されている。
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