研究概要 |
結晶構造の点で規則ーメソスコピック相変態とされた構造空孔を含む化合物半導体In2Te3について,その相変態挙動を調べ,変態挙動の点からも規則ー不規則変態ではなく規則ーメソスコピック変態であることを実証した. In2Te3高温相の試料をTc直下の温度で保持すると,核発生ー成長型で低温相が生成した.Tc直下の610℃で時効すると,まず速い規則化が起こった.これは空孔面を形成していない固溶空孔の一部が空孔面で取り囲まれた領域で不均質核発生したものである.速い規則化で生じた低温相の結晶は10nm以下と微細で,サイズが小さなことに起因する散漫な低温相のX線回折ピークを与えた.しかしこれは低温相の核としては認識されない.低温相に相当する規則化領域があるにもかかわらず,Tc直下では反応はこれ以上進行しない.これは空孔面がマトリックス部に溶解する反応がきわめて遅いためである.メソスコピック相では結晶全体として平均価電子数4を守るだけでなく,局所の対称性としても有利な4配位のTeを効率的に生成すべく空孔を最密面である{111}面に相分離することなく析出させる.この状況ではマトリックス部の空孔濃度は低いことが望まれ,特にTc直下ではマトリックス部の空孔濃度は低温相領域とも空孔面ともほぼ平衡している.固溶空孔濃度の高い領域からの低温相領域発生ではなく組織的には2相域から単相の規則相が生成しているとみなされる点が反応を遅らせている理由といえる.すなわち相としては単相から単相への規則化といえるが,組織的には2相から単相への相変態であること,すなわち高温相がメソスコピック相であることに由来した.
|