研究概要 |
白金錯体の抗リューマチ作用のスクリーニング試験から示唆された金属錯体の金属近傍芳香環により形成される配位環境が錯体の構造と反応性に及ぼす影響を明らかにし、錯体の新しい機能開発を行うことを目的とした。 側鎖に芳香環を有し,分子内芳香環スタッキングによって白金の配位ドナーにひずみをかけた白金(II)錯体を合成後,塩化ナトリウム溶液と反応させ,塩素イオンが配位した中間体を単離した。この化合物のIR,NMR,吸収スペクトルから中間体の構造を決定した。当初の予想に反して,分子内芳香環スタッキングによるひずみがある方のNドナーは安定で,単にアミノ基で配位していた方が白金(II)から外れてそこに塩素イオンが配位していた。一方,側鎖芳香環がない白金(II)錯体では同じ条件下では全く反応せず,側鎖芳香環が塩素イオンが白金錯体に取り込まれる反応を加速している事実が明らかにされた。 これらの実験結果は,側鎖芳香環とスタッキングしている配位ピリジン環部位がスタッキングにより電子が豊富になり,そのトランス位にあたるアミノ基がトランス効果で置換活性になったことを示している。白金195NMRはスタッキング強度が大きいほど低磁場にシフトしており,電子が白金からスタックした配位ピリジン環へ移動していることを示唆していた。また,塩素イオンによる置換反応はスタッキング強度が大きいほど起こりやすいことが定性的に示され,スタッキングと塩素イオンの置換反応活性とが比例していることが示された。 本系は弱い相互作用による電子効果が白金のトランス効果を経由して遠隔部位に与えることが明確に示された初めての例である。分子内スタッキングにより置換活性を起こさせる手法は生体系標的に達するまでは置換反応がおこらず,標的で初めて結合するドラッグデリバリーに都合のよい制御方法を提供している。
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