研究概要 |
本年度は,前年度の成果であるシミュレーションの基盤となる基礎理論の定式化を用いて,大規模なシミュレーションを行った. 平成10年度の研究成果として,ランダム磁性体の秩序変数を計算する新しい数値計算法を開発することができた.この方法の新しい点は,ランダム平均を行う際に,モンテカルロ法を適用し,強磁性秩序変数のある意味での単純平均でスピングラス秩序変数を導出することが可能になったことにある.この方法を用いれば,これまで計算することのできなかった大きな系で秩序変数を計算することができる.今年度は,2次元±Jイジングモデルにおいて,計算を実行し,現在,議論されている2次元±Jイジングモデル(L【less than or equal】23)におけるスピングラス相の存在の有無について詳細に調べた. 計算結果を,有限サイズスケーリングを用いて解析した.通常のスケーリング解析では,有限温度(T_c/J( SY.simeq.〔)0.3)での相転移を強く示唆する結果を得た. 今回の研究においては,計算精度が飛躍的に向上し,エラーバーの大きさが,従来の研究の1/10程度となった.そこで,これまで行われてこなかったサイズ補正を含めたスケーリング解析を行うことができた.その結果,0【less than or equal】)T/J【less than or equal】)0.3のどの温度も,臨界温度となる可能性がある結果を得た.つまり,スケーリング解析においては,サイズ補正の効果が非常に大きいことがわかった. 今年度の研究においては,計算する系も大きくでき,計算精度も飛躍的に向上することができたが,スピングラス相の存在の有無に関しては,はっきりとした結論を得るには至らなかった.
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