研究概要 |
細胞内にある自由水の氷結晶生成機構に水分子の水素結合が寄与することを重視し,マイクロ波を利用して水素結合を阻害し,細胞内凍結を能動的に制御するという新たな方法の可能性を探る研究を実施した. まず,既存の方向性凝固観察装置にマイクロ波照射装置を組み込み,玉ねぎの表皮組織を生体試料とした凍結機構の観察実験を行った.マイクロ波は,発振周波数2.45GHz,最大出力200Wのインバーター式マグネトロンを発生し,直径48mmのスポットアンテナから,水平方向60mm,鉛直方向50mm離れた位置にある顕微鏡冷却ステージ上の試料に照射される.実験は,アンテナ出力25Wの連続照射とし,冷却速度を10〜20℃/minの条件下で行った. その結果,マイクロ波を照射しながら生体試料を冷却・凍結させる場合には,マイクロ波を照射しない場合より細胞の凍結温度が低下し,マイクロ波が細胞内凍結を抑制することが実験的に確認された. また,解凍後の細胞形態を観察し,マイクロ波の照射によって細胞の損傷を軽減することができることが分かった.すなわち,マイクロ波を照射しない場合には,ほとんどの細胞の細胞膜が壊れており,原形をとどめているわずかな細胞にあっても,原形質流動はまったく確認できなかったが,マイクロ波を照射した場合には,原形をとどめている細胞のいくつかに原形質流動が観察された.マイクロ波による氷晶成長の抑制作用が細胞損傷を軽減したものと考えられ,凍結保存技術に有効であると判断される. なお,外部溶液の凍結のある条件下でも,マイクロ波の照射によって凍結温度は低下するが,氷晶成長の抑制作用が外部氷晶の存在によって低下するため,照射強度を上げるなど,照射条件の検討が必要であり,そのメカニズムの解明とともに効果の定量的評価を今後の課題としたい.
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