研究概要 |
本年度は,高エネルギー状態を近似的に計算するプログラムを開発し,光学フォノンを介したエネルギー緩和過程に対する電子間の相互作用の影響を考察する予定であったが,プログラム開発過程において,技術的な困難が生じたため,非対称多重量子構造において,電子がフォノン散乱により隣合う井戸間をトンネルする過程において,電子が光学フォノンを放出してエネルギーを失う際に光学フォノンが熱平衡状態からずれた分布をとることがフォノン放出過程に及ぼす影響,いわゆる,ホットフォノンの影響について特に詳しく調べた. 具体的に行ったことは,GaAs/AlGaAs非対称量子井戸における光励起された電子の緩和過程のモンテカルロ・シミュレーションである.モンテカルロ・シミュレーションでは,簡単のため,パルスレーザーによって励起された電子の運動のみを,フェルミの黄金律を用いて計算した散乱確率を用いて半古典的に計算した.とり入れた散乱過程は,不純物散乱,極性光学フォノン散乱,音響フォノン散乱(変形ポテンシャル相互作用)のみであり,縮退の効果は無視した.ホットフォノンの影響を考慮にいれないモンテカルロ・シミュレーションの結果,(1)2重量子井戸構造における減衰時間の方が3重量子井戸構造の減衰時間より長い,(2)不純物をドープした方が平均的には減衰時間が短くなる,(3)逆バイアスの増加とともに減衰時間が短くなる,などの定性的な傾向は我々が行った測定結果と比較的良い一致を示した.しかし,定量的には,(1)3重量子井戸構造における減衰時間の計算時間が測定結果より1オーダー程度速い,(2)共鳴状態における減衰時間のディップが計算結果では実験結果より深い,などの点で測定結果と計算結果とは一致しなかった.そこでホットフォノンの影響も考慮したモンテカルロ・シミュレーションを行った.ホットフォノンの効果を取り入れたシミュレーションをおこなうためには,光学モードのフォノンが音響モードのフォノンへと減衰していく時間τ_<LO>と,散乱に関与する光学フォノンのモード数と電子数と比ηの値が必要である.本研究ではτ_<LO>=7ps,η=2程度を中心に種々のパラメータのもとでホットフォノンの効果を取り入れたモンテカルロ・シミュレーションを行った.その結果,ホットフォノンの効果により減衰時間が長くなることが確かめられたが,測定結果との不一致を改善する程ではないことが分かった.
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