研究概要 |
最近,ディジタル情報技術の進歩や,インターネットの普及に伴って,画像情報など各種ディジタルコンテンツに対する知的所有権の問題がクローズアップされてきている.ディジタルコンテンツは,その特性上,一般に容易に複製を作成することができることから,従来の記録メディアに依存したコンテンツの流通システムをその根底から覆す可能性もあり,何等かの対策が望まれている.そのためには,倫理面,教育面,法律面,そして技術面と,多様な角度からのアプローチが必要であると考えられるが,ディジタルデータにID等の署名情報を埋め込むことにより,不正コピーの抑制をはかる電子透かしの研究がなされている. 現在,静止画像に関しては数多くの研究がなされているが,動画像に関しては十分な研究がなされていないのが現状である.そこで,標準的な動画像の符号化法として実用的にも注目されているMPEG方式を対象として,ディジタル動画像に適した電子透かし法を検討した.提案した方式は,MPEGの特徴である動きベクトル領域に,ID情報等を埋め込む方式であるが,一般に動きベクトルは,動画像中に数多く存在するため,多くの情報を埋め込むことが可能である.また,電子透かし法では,データの改竄などにより埋め込み情報が消失してしまわないようにする必要がある.そこで,誤り訂正能カの点で優れており,かつ容易に復号可能な繰り返し符号を用いてID情報の符号化を行ってきた.しかし,動きベクトルの変化に伴いSN比の劣化が生じる.そこで,SN比の劣化量を抑える方式を提案し,評価を行った. また,開発した電子透かし法を用いて,新しいコンテンツ配信システムの提案を行った.従来考えられているコンテンツ配信システムでは,暗号化技術を用いることにより,配信途中のデータを不正に利用することは困難であったが,復号済みのコンテンツを不正にコピーするような不正行為が行われる可能性があった.提案手法はコンテンツ復号鍵内にユーザのID情報等を電子透かしとして埋め込み,暗号化コンテンツを復号する際に透かし情報が復号コンテンツに埋め込まれる手法である.従って,復号済みのコンテンツを不正にコピーする不正行為があったとしても不正者を特定することが可能である. 本研究により得られた成果は,マルチメディア素材の著作権保護に関して重要な役割を果たすことが十分に期待できるものである.
|