研究概要 |
新しい世紀を間近に控えて,社会資本の充実とその長期耐久性確保の観点から,種々の構造物構成する鉄鋼材料の長期にわたる腐食特性を理解することは極めて重要である.しかしながら,工学的視点から系統的に鉄鋼の腐食研究が開始されたのは今世紀に入ってからであり,数百年以上の鉄鋼の腐食に関する知見はほとんど得られていない.本研究では,考古学的遺物に着目し,約500年を経て墓群から発掘された鉄釘について,そのさび層構造と耐食性について検討した. 供試材は,(財)大阪府文化財調査研究センターにより発掘された2種類の鉄釘である.一方(記号:GN1)はほぼ原形をとどめており耐食性に優れると言える方(GN2)は著しい腐食により金属部分がほとんど残存していない.発掘地は,室町時代から戦国時代(14世紀〜16世紀)に造られた栗栖山南中世墓群の火葬場である.それぞれのさび層について,電子線回折法およびX線回折法によりさび相の同定と定量,光学顕微鏡およびTEMによる観察,ICP発光分光分析およびEPMAによる組成分析と主要元素分布の測定を行った.また,GN1については,残存していた金属部についても組成分析を行った.さび層は主としてX線的非晶質物質,マグネタイトおよびゲ-サイトにより構成されており,GN2ではアカガナイトも検出された.GN1のさび層はほぼ全域にわたり凹凸か少なく,約350μmの厚さを有し巨視的な欠陥は少ない.このさび層は容易に除去することができず極めて強固に金属部に密着しており,GN2のさび層が脆弱であることと対照的である.このGN1のさび層中にはP,Caの濃化が認められ,これらの元素がさび層の保護性を高めていると思われる.また,さび層表面は赤褐色を呈しており,X線回折により微量のヘマタイトが検出されたことから,腐食環境に曝される前に火葬による熱で薄いヘマタイト層が形成していたと推測される.
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