本研究の目的はガス状分子、特に大気中の気体水分子の濃度(湿度、しつど)に対する生物の認識応答の分子機構を解析し、乾燥条件下で発現する遺伝子(乾燥遺伝子)の特定単離とその応用を目指す事にある。本年度における研究成果は次の通り。 1.糸状菌の湿度認識を、分生子の出芽過程、すなわち、膨潤、出芽、および菌糸伸長における湿度依存性として調査した。耐乾燥糸状菌(Eurotium herbariorum)の分生子の出芽と菌糸伸長に湿度依存性を示し、その最適条件は相対湿度68.0%であった。(28℃)。すなわち、糸状菌は湿度を認識出来る事になる。昨年度行なったた出芽シグナルとしての分生子乾燥処理は「1時間」の短時間であり、本年度行なったオーバーオールとしての出芽現象とは異なるのである。 2.耐塩性酵母菌(Zygosaccharomyces rouxii)おける、環境変化(浸透圧付加および乾燥付加)への応答としての細胞内フリー・グリセロール濃度変化を調査した。浸透圧付加においては、細胞内フリーグリセロール濃度が約100倍に上昇するが、乾燥付加(相対湿度100%から68%への環境変化)においては、グリセロールの細胞内濃度が全く変化しなかった。すなわち、耐塩性酵母菌は浸透圧および湿度に対し、別の機構で応答する事になる。 3.湿度変化(湿度低下=乾燥)に対応する生成mRNAの逆転写産物(cDNA)の単離に努めているが、未だ成功していない。
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